2010年02月09日 04:21
ちょっと追加。
なかなか時間がとれないなあ;
日がおちてしばらくしたころ。
シャーは、昨夜と同じく、頭に布を巻きつけて少しいつもと姿を変えて街に来ていた。夜の街は、昨日と同じく賑やかだったが、こころなしか人の数が増えているようだった。そういえば、そろそろ休日が近いことをシャーは思い出していた。
「あいつら、遅いなあ」
シャーはため息をつきながら、やってくるはずのゼダとジャッキールを待っていた。
ここでぼんやり待っているのも退屈だったが、かといって今日行く目的の店の場所を知らないのだから、とりあえずジャッキールが来るまでどうにもならないのだ。
間違いなく、ここは彼が指定した昨日のひなびた酒場の前なのだが、それにしても、こんなところで長時間ぽつりと待っていたら不審に思われてしまいそうだ。ただですら、シャーは誤解を与えやすい男なのである。
「おーい」
向こうから声が聞こえて、シャーはぼんやりとそちらを見やった。向こうから、心持急ぎ足でこちらにくるのは、ゼダだ。
ゼダは、いつもよりは地味な上着を着て、普段とは違う被り物をしていた。そんな変装でいいのかよ、とシャーは突っ込みたくなったものの、ゼダは表情を変えてしまうとまるで別人に見えるから問題はないのだろう。
「いやあ、悪い悪い。遅れちまったな」
口で悪いといいながら、一向に悪びれている風もないゼダの言葉だ。シャーは、不機嫌だったが、肝心のジャッキールの姿も見えないところなので、ゼダを一方的に責めることもできずにいた。
「またねーちゃんを振り切るのに時間がかかったんじゃないのかよ」
精一杯そういってやったところで、ゼダが珍しく渋い顔をした。
「そういう話ならいいんだがな」
「何だよ。色気のない話なのか?」
「ザフだよ。ザフ」
ゼダは、珍しくうんざりした様子で首を振った。
「あいつの心配性にも困ったもんだぜ。ちょっとでかけるっていっただけなのに、いちいちどこにいくんですか、お帰りはいつですか、誰と遊びに行かれるのですかってしつこいんだ」
「なるほどねえ」
シャーは昼間の青年の様子を思い浮かべた。おそらく、今日、シャーと会うらしいことに、彼は気づいているはずだったからだ。
「あいつを振り切るのに時間がかかってさあ。いい加減、子供じゃねえんだから自由にしてほしいぜ」
「ふん、がきみたいな面してよくいうぜ。手を離したらどこにいくかわからねえから心配されてるんだろうが。いーじゃねえか、忠実な部下でさあ」
「それはありがたいんだがな。ああ、いちいちうるさいと参っちまうぜ」
ゼダは、眉をひそめると、ふと瞬きした。
「そうそう、それはそうとして、その旦那はどこいったんだ?」
「それが見つかってりゃ、こんなところでぼさっと立ってないよ」
シャーは肩をすくめた。
「ここで待ってろっていわれたんだけどなあ」
シャーは、改めて周りを見回した。正面には、うらぶれた酒場がぽつんと立っている。間違いなく、昨日ジャッキールとわかれた場所だった。彼はここで待っていろといっていたのだ。
「ダンナ、道に迷ったかね?」
シャーは、ため息をついた。あの男なら、ありえることだ。なんだか普段はぼんやりしていて、ちょっとどじなところもある。シャーは少し気が抜けて、どうしたものやら考え始めていた。ゼダまできているのに、今日はこのまま退散などと格好のわるいことはできない。
「貴様ら、何をしている?」
と、背後から声と気配を感じて、シャーはちらりと後ろを振り返った。そして、思わずどきりとして、居住まいを正した。
そこにいたのは、背の高い男だった。帽子を目深にかぶり、鼻から下を布で半分覆い、黒っぽい長いマントを羽織っている。右目を黒い布で斜めに覆っているので、見えている左目だけが宵闇のわずかな光を受けてぎらぎら光っていた。
「な、何か御用ですか……」
反射的に萎縮しつつ、シャーはそうっと訊いてみた。男は見えている片目を瞬かせた。
「わからんか。俺だ」
男は、口を覆っている布をぐいと下げた。 と、シャーとゼダは同時に、あ、と声を上げた。
「ジャッキール?」
奇妙な格好をした彼は、あからさまにむっとした様子になっていた。
「そうだ。ずっと待っているのに、貴様らときたら一向に来ないものだからどうなっているのかと思った」
どうやら、ずいぶん前から待っていたらしい。この男の性格を考えると、約束の時間の相当前から待っていただろうから、余計に待たされて憤然としているらしかった。とはいえ、シャーはそんなことに興味はない。改めて、ジャッキールの服装を頭の上からつま先まで眺めてみる。普段は黒一色のことが多い地味なジャッキールには珍しい格好には違いない。朱色に幾何学模様の入ったスカーフを頭巾のようにして顔を覆い、こじゃれた装飾のある帽子をあみだかぶっている。黒いマントもよくみると、黒の糸で花をすかして刺繍していて、普段の彼からみるとずいぶんと洒落てはいるのだが、なんとなく彼がそういう格好をしているとなんとなく奇妙に思えた。
「何だよ。その格好は」
笑いをかみ殺しつつ、シャーはきいた。
「何? もちろん、変装だ。なんだ、貴様等は。そんな面の割れる格好をしてきて、どうにかなってもしらんぞ」
「変装って何もそんな厳重な格好しなくてもさあ。なんか、どこかの世を忍ぶ正義の味方って感じじゃんか、ジャキジャキ」
シャーは思わずにやついていった。あまりからかってはいけないと思いつも、どうしても目の前にからかう対象がいるものだから、ついつい調子に乗ってしまう。
「そうだな、正義の味方って感じだよなあ」
便乗してゼダが笑う。
「普段は悪役みたいな格好しているから、そんな格好してたら誰かわかんなかったぜ」
シャーが手を打った。
「あはは、まったく! 誰かと思ったぜ」
「世直しの何とか頭巾とか何とか仮面とかそういうのやってそうだなあ」
「あ、ダンナなら似合いそう。ひゃはははは、いいね、それ!」
調子に乗って、二人は顔を見合わせてにやりとした。
「もう、いっそのことそのまま正義の味方でもやったら?」
「ああ。ダンナは顔が怖いから、そうやってるほうが子供たちにももてるよ、きっと。なんとか頭巾のおじさんとかいわれてさあ」
「わはははは、似合いすぎるぜ」
「ひひひひひ、たまんねえなあ」
二人は盛大に笑い声をあげる。黙って聞いていたジャッキールだったが、いきなり目を見開くと、拳をあげた。
「調子に乗るな!」
ジャッキールの拳が同時に頭に降り注ぎ、シャーとゼダは思わず悲鳴をあげた。
「痛てっ!」
「貴様らのために案内してやるのに、なんだその言い草は! 遅刻してきて、なんだ、貴様等は!」
ジャッキールは、頭をおさえる二人を見ながら、いかにも憤慨して言った。
「お前らが案内してほしいというからだったのだ。俺は、いいのだぞ。俺は! それとも何か?」
いきなり、ジャッキールの目が、宙を泳いだ気がした。同時に、口角がひきつる。
「今から死ぬか?」
最後の一言で、いきなり、ジャッキールの口調が変わったので、シャーは思わずどきりとした。そうっと彼の顔を覗き見て、シャーはさあっと青くなる。
「な、何を藪から棒なこと……」
「黙れ! 行くのか、死ぬのか聞いているのだ!」
「あ、ちょ、ちょと、ダンナってばやだねえ。そんな、すぐ本気になっちゃうんだから」
シャーはそうやってごまかしながら大げさに首を振った。
話がかみ合っていない。マズイ。第一、ジャッキールは、もう腰に下げた剣の柄をひたひたと指先で叩きだしていた。
「お、おい……」
ゼダがややおびえたような声でシャーの注意を引く。
なかなか時間がとれないなあ;
日がおちてしばらくしたころ。
シャーは、昨夜と同じく、頭に布を巻きつけて少しいつもと姿を変えて街に来ていた。夜の街は、昨日と同じく賑やかだったが、こころなしか人の数が増えているようだった。そういえば、そろそろ休日が近いことをシャーは思い出していた。
「あいつら、遅いなあ」
シャーはため息をつきながら、やってくるはずのゼダとジャッキールを待っていた。
ここでぼんやり待っているのも退屈だったが、かといって今日行く目的の店の場所を知らないのだから、とりあえずジャッキールが来るまでどうにもならないのだ。
間違いなく、ここは彼が指定した昨日のひなびた酒場の前なのだが、それにしても、こんなところで長時間ぽつりと待っていたら不審に思われてしまいそうだ。ただですら、シャーは誤解を与えやすい男なのである。
「おーい」
向こうから声が聞こえて、シャーはぼんやりとそちらを見やった。向こうから、心持急ぎ足でこちらにくるのは、ゼダだ。
ゼダは、いつもよりは地味な上着を着て、普段とは違う被り物をしていた。そんな変装でいいのかよ、とシャーは突っ込みたくなったものの、ゼダは表情を変えてしまうとまるで別人に見えるから問題はないのだろう。
「いやあ、悪い悪い。遅れちまったな」
口で悪いといいながら、一向に悪びれている風もないゼダの言葉だ。シャーは、不機嫌だったが、肝心のジャッキールの姿も見えないところなので、ゼダを一方的に責めることもできずにいた。
「またねーちゃんを振り切るのに時間がかかったんじゃないのかよ」
精一杯そういってやったところで、ゼダが珍しく渋い顔をした。
「そういう話ならいいんだがな」
「何だよ。色気のない話なのか?」
「ザフだよ。ザフ」
ゼダは、珍しくうんざりした様子で首を振った。
「あいつの心配性にも困ったもんだぜ。ちょっとでかけるっていっただけなのに、いちいちどこにいくんですか、お帰りはいつですか、誰と遊びに行かれるのですかってしつこいんだ」
「なるほどねえ」
シャーは昼間の青年の様子を思い浮かべた。おそらく、今日、シャーと会うらしいことに、彼は気づいているはずだったからだ。
「あいつを振り切るのに時間がかかってさあ。いい加減、子供じゃねえんだから自由にしてほしいぜ」
「ふん、がきみたいな面してよくいうぜ。手を離したらどこにいくかわからねえから心配されてるんだろうが。いーじゃねえか、忠実な部下でさあ」
「それはありがたいんだがな。ああ、いちいちうるさいと参っちまうぜ」
ゼダは、眉をひそめると、ふと瞬きした。
「そうそう、それはそうとして、その旦那はどこいったんだ?」
「それが見つかってりゃ、こんなところでぼさっと立ってないよ」
シャーは肩をすくめた。
「ここで待ってろっていわれたんだけどなあ」
シャーは、改めて周りを見回した。正面には、うらぶれた酒場がぽつんと立っている。間違いなく、昨日ジャッキールとわかれた場所だった。彼はここで待っていろといっていたのだ。
「ダンナ、道に迷ったかね?」
シャーは、ため息をついた。あの男なら、ありえることだ。なんだか普段はぼんやりしていて、ちょっとどじなところもある。シャーは少し気が抜けて、どうしたものやら考え始めていた。ゼダまできているのに、今日はこのまま退散などと格好のわるいことはできない。
「貴様ら、何をしている?」
と、背後から声と気配を感じて、シャーはちらりと後ろを振り返った。そして、思わずどきりとして、居住まいを正した。
そこにいたのは、背の高い男だった。帽子を目深にかぶり、鼻から下を布で半分覆い、黒っぽい長いマントを羽織っている。右目を黒い布で斜めに覆っているので、見えている左目だけが宵闇のわずかな光を受けてぎらぎら光っていた。
「な、何か御用ですか……」
反射的に萎縮しつつ、シャーはそうっと訊いてみた。男は見えている片目を瞬かせた。
「わからんか。俺だ」
男は、口を覆っている布をぐいと下げた。 と、シャーとゼダは同時に、あ、と声を上げた。
「ジャッキール?」
奇妙な格好をした彼は、あからさまにむっとした様子になっていた。
「そうだ。ずっと待っているのに、貴様らときたら一向に来ないものだからどうなっているのかと思った」
どうやら、ずいぶん前から待っていたらしい。この男の性格を考えると、約束の時間の相当前から待っていただろうから、余計に待たされて憤然としているらしかった。とはいえ、シャーはそんなことに興味はない。改めて、ジャッキールの服装を頭の上からつま先まで眺めてみる。普段は黒一色のことが多い地味なジャッキールには珍しい格好には違いない。朱色に幾何学模様の入ったスカーフを頭巾のようにして顔を覆い、こじゃれた装飾のある帽子をあみだかぶっている。黒いマントもよくみると、黒の糸で花をすかして刺繍していて、普段の彼からみるとずいぶんと洒落てはいるのだが、なんとなく彼がそういう格好をしているとなんとなく奇妙に思えた。
「何だよ。その格好は」
笑いをかみ殺しつつ、シャーはきいた。
「何? もちろん、変装だ。なんだ、貴様等は。そんな面の割れる格好をしてきて、どうにかなってもしらんぞ」
「変装って何もそんな厳重な格好しなくてもさあ。なんか、どこかの世を忍ぶ正義の味方って感じじゃんか、ジャキジャキ」
シャーは思わずにやついていった。あまりからかってはいけないと思いつも、どうしても目の前にからかう対象がいるものだから、ついつい調子に乗ってしまう。
「そうだな、正義の味方って感じだよなあ」
便乗してゼダが笑う。
「普段は悪役みたいな格好しているから、そんな格好してたら誰かわかんなかったぜ」
シャーが手を打った。
「あはは、まったく! 誰かと思ったぜ」
「世直しの何とか頭巾とか何とか仮面とかそういうのやってそうだなあ」
「あ、ダンナなら似合いそう。ひゃはははは、いいね、それ!」
調子に乗って、二人は顔を見合わせてにやりとした。
「もう、いっそのことそのまま正義の味方でもやったら?」
「ああ。ダンナは顔が怖いから、そうやってるほうが子供たちにももてるよ、きっと。なんとか頭巾のおじさんとかいわれてさあ」
「わはははは、似合いすぎるぜ」
「ひひひひひ、たまんねえなあ」
二人は盛大に笑い声をあげる。黙って聞いていたジャッキールだったが、いきなり目を見開くと、拳をあげた。
「調子に乗るな!」
ジャッキールの拳が同時に頭に降り注ぎ、シャーとゼダは思わず悲鳴をあげた。
「痛てっ!」
「貴様らのために案内してやるのに、なんだその言い草は! 遅刻してきて、なんだ、貴様等は!」
ジャッキールは、頭をおさえる二人を見ながら、いかにも憤慨して言った。
「お前らが案内してほしいというからだったのだ。俺は、いいのだぞ。俺は! それとも何か?」
いきなり、ジャッキールの目が、宙を泳いだ気がした。同時に、口角がひきつる。
「今から死ぬか?」
最後の一言で、いきなり、ジャッキールの口調が変わったので、シャーは思わずどきりとした。そうっと彼の顔を覗き見て、シャーはさあっと青くなる。
「な、何を藪から棒なこと……」
「黙れ! 行くのか、死ぬのか聞いているのだ!」
「あ、ちょ、ちょと、ダンナってばやだねえ。そんな、すぐ本気になっちゃうんだから」
シャーはそうやってごまかしながら大げさに首を振った。
話がかみ合っていない。マズイ。第一、ジャッキールは、もう腰に下げた剣の柄をひたひたと指先で叩きだしていた。
「お、おい……」
ゼダがややおびえたような声でシャーの注意を引く。
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